五角形と六角形、光の行方

ロッククリーク産のオールドストックのサファイア原石をいくつか研磨していた際、原石の色が少し濃いだけでも、カット後のルースが正面から見ると黒っぽく感じられることがありました。

素材の良さを引き出せないのがもったいなくて、明るく見せる方法を探す中で、カットの角数によって光の抜け方がどう変わるのかを試してみることにしました。

角数が違うと、光の入り方はどう変わるのか? 同じ原石グレードで角数だけを変えた2つのカットを比較してみました。

比較に使用したカットデザインは、五角形の「Zora's Sapphire」と六角形の「Smallest Hex Apex」です。どちらもミートポイント(Meetpoint、隣接するファセットの角がぴったり合う位置)が整いやすく、安定して研磨できる設計です。

仕上がった石を見てみると、光の印象に少し違いがありました。

光の経路図による比較

下の図は、Zora's Sapphire(五角形)とSmallest Hex Apex(六角形)で光の経路を比較したものです。テーブル付近やクラウン側の端(ファセットの側面)から光が入った場合の進み方を、真正面(左)と横(右)から表示しています。光は左から右に進むように設定し、図の作成にはGem Cut Studioを使用しました。

図①:Zora's Sapphireの光の経路図

Zora's Sapphire:テーブル上面・斜め/サイド上面・斜め

Zora's Sapphireでは、光が中央に集まりすぎず、全体に広がるような印象になります。これは、光が石の内部をどう通り、どの方向へ抜けていくかによって生まれる、視覚的な「きらめき」や「色の広がり」によるものです。

この「広がる印象」は、光の入り方によって反射方向が大きく変わることとも関係していそうです。

図②:Smallest Hex Apexの光の経路図

六角形(偶数角形)は、向かい合う面がぴったり対称になるので、どこから光が入っても似たような経路をたどりやすい傾向があるようです。

一方で、五角形(奇数角形)は対称のとり方がちょっと複雑で、光の入る位置がほんの少しずれただけでも、跳ね返る方向が大きく変わります。

実際に、Light Path ViewerでZora's Sapphire(五角形)とSmallest Hex Apex(六角形)を比べてみたところ、そうした差がかなりはっきり出ていました。

もちろん、どんなデザインでもそうなるとは限りませんが、別のデザインをいくつか仮で作って確認したところでも、似たような傾向が見えています。

Zora's Sapphireの3石について

Zora's Sapphireのファセットダイアグラムはこちら:
https://www.gemologyproject.com/wiki/index.php?title=Akhavan_-_Zora%27s_Sapphire

今回使用したZora's Sapphireシリーズでは、3点の原石を使いました。いずれもやや青みの強い、彩度の高いモンタナ産の素材です。

モンタナサファイア 0.423ct "Zora's Sapphire"

Zora's Sapphireを初めてカットした1点です。クラウンの向きや角度に合わせてハンドピースの持ち方をこれまでと変えたところ、ファセットエッジ(Facet Edge、ファセット同士が交わる部分)が思った以上にきれいに仕上がりました。

ただ、それまで使用していた向きに合わせて調整していたハンドピースの足が、今の向きにぴったり合っていなかったため、石とラップ(Lap、宝石を研磨する回転工具)の接地面の角度がわずかにずれてしまい、ポリッシュ(Polish、研磨仕上げの工程またはその仕上がり)には通常よりも時間がかかりました。このあと、今のハンドピースの向きに合わせてバランスを再調整しました。

濃い色の原石でしたが、五角形のカットによって光の抜け感が出て、明るさのある仕上がりになりました。色味はわずかにグリーンを帯びたデニムブルーで、力強い輝きが感じられます。使用した原石は1980年代に採掘されたロッククリーク(Rock Creek、アメリカ・モンタナ州のサファイア鉱山のひとつ)のオールドストックで、深みのある色合いが特徴です。

このルースの詳細を見る
https://www.raralab.shop/product/montana-sapphire-0423ct-zoras-sapphire/110

モンタナサファイア 0.419ct "Zora's Sapphire"

「Zora's Sapphireで明るさがどう出るか」を確認するために選んだ3点のうちのひとつです。作業の中断があり、クラウンのポリッシュを途中まで仕上げた状態からの再開となりました。その後、石が外れてしまい、完全に付け直してから再挑戦しています。

研磨作業では、宝石を固定するためのコーンドップ(Cone Dop、先端が広がったロウト型の金属棒で、宝石を固定する道具)と、コクヨの「ひっつき虫」を使って慎重にセットし直しました。これにより無事に研磨を再開できた一石です。

色合いは落ち着いたグリーンで、深みのある表情が特徴です。使用した原石は、引退されたアメリカのカッターご夫妻から譲っていただいた、大切に保管されていた在庫のひとつでした。

商品ページはこちら
https://www.raralab.shop/product/montana-sapphire-0419ct-zoras-sapphire/111

モンタナサファイア 0.418ct "Zora's Sapphire"

比較的最近採掘された、明るめの原石を使用しました。濃いめの石が多い中で、あえて明るさを重視した仕上がりを目指した一石です。

ポリッシュには少し苦労し、ダイヤの量や速度を調整しながら試行錯誤した結果、通常よりも高速での研磨作業に切り替えたことでうまくいきました。この石の研磨を通して、同じカットでも個体ごとに研磨のしやすさが異なることを改めて実感しました。状況に応じた柔軟な調整の大切さを感じさせてくれた一石です。

ブルーグレー系の色味で、明るさと彩度のバランスが良く、小粒ながらよく映える仕上がりになりました。

このルースの商品ページを見る
https://www.raralab.shop/product/montana-sapphire-0418ct-zoras-sapphire/112

実際に研磨してみて感じたこと

もともと色の濃い原石を研磨した際、正面から黒っぽく見えてしまう仕上がりに悩んでいたことが、今回の比較を始めたきっかけのひとつでした。

その中で五角形のZora's Sapphireを試したところ、同じような濃さの原石でも、正面から見たときにしっかり色が抜けて、きれいな輝きが現れたのが特に印象的でした。今回の結果から、色の濃い原石でも明るく仕上げられる可能性があると実感できました。これからは、より自信を持ってカットに臨めそうです。

こういったことは、おそらく熟練のカッターさんなら経験則で判断されているのだと思いますが、今回はGem Cut Studioやファセット図などのツールを使いながら一つひとつ確認して進められたことで、自分のような経験の浅い研磨者でも、納得のいく色出しができたのがありがたいポイントでした。

参考資料

Zora's Sapphire(Arya Akhavan)ファセットダイアグラム
https://www.gemologyproject.com/wiki/index.php?title=Akhavan_-_Zora%27s_Sapphire

使用ソフト:Gem Cut Studio(光の経路図の作成に使用)

Gilbertson, G. (2013). "Visual Performance of Gemstones". GIA
https://www.gia.edu/doc/1495295422874/GG-SU13-Gilbertson.pdf

※本文中で直接引用していない資料も含まれますが、記事作成時の調査・理解の参考として使用しました。

撮影機材

ただいま調整中!動画もお休みしており、ご不便をおかけします。

Previous
Previous

削って感じたサファイアのちがい - ウンバとモンタナ

Next
Next

研磨で引き出すジルコンの輝きと色