削って感じたサファイアのちがい - ウンバとモンタナ
原石を削っていると、「この産地の石はクラック(Crack)が多いな」と感じることがあります。
ウンバ(Umba)産のサファイアも、そのひとつです。これまでに削った原石にはクラックが入っていることが多く、完成までたどり着いた例はほとんどありませんでした。
ところが今回は、めずらしくクラックのない原石で、最後まで仕上げることができました。
印象に残る経験だったため、モンタナ(Montana)産など他の産地の石とも比べながら、あらためて観察と調べものをしてみることにしました。
原石を削って見えてきたこと
これまでに購入したウンバ産の原石は10点ほどあります。
そのうち5〜6点を実際に削ってみましたが、どれもクラックが入っていて、最後まで仕上げられたのは今回の1点だけです。
慎重に削らないと、途中でヒビが広がってしまうこともあり、研磨の際には注意が必要な印象です。
一方で、モンタナ産、特にロッククリーク(Rock Creek)の原石には、割れの少ないものが多く、扱いやすく感じることが多くありました。
手元のロットは1980年代に採掘されたオールドストック(Old stock、過去に採掘・保管された原石)で、保存状態が良好だったことも関係しているかもしれません。
当時の採掘方法や取り扱いの丁寧さが、割れの少なさに影響していたのかもしれません。
今回のウンバ産のこの石は、そういった意味でも特別でした。クラックが見られず、仕上げまで特に問題なく進められました。
割れのないウンバ産を扱うのは今回が初めてだったので、仕上がったルースを見て少しうれしくなったことを覚えています。
鉱床とクラックの関係について調べてみた
クラックが入りやすいかどうかは、石の育った環境や、その後どう運ばれてきたかとも関係しているようです。
調べてみると、鉱床(Deposit)のタイプがひとつの手がかりになるとされていました。
宝石が見つかる鉱床は、大きく一次鉱床(Primary deposit)と二次鉱床(Secondary deposit)に分けられます。
一次鉱床は、結晶が母岩の中にそのまま残っている鉱床です。ヨゴ(Yogo)産のサファイアがこれにあたります。
外からの衝撃を受けにくいため、クラックが少ない石が見つかりやすいとされますが、結晶が成長する途中で内部に力がかかり、割れができることもあります。
二次鉱床は、岩からはがれた結晶が川の流れや風に運ばれ、最終的に砂利や堆積物の中にたどり着く過程で形成されます。
この移動の途中で、原石が他の石とぶつかったり、長時間転がされたりすることで、外部からのダメージを受けやすくなり、それがクラックの原因になることがあります。
モンタナ州のロッククリーク産は、GIAなどの資料でも明確に二次鉱床とされており、比較的クラックが少ない印象だったことと合わせて考えると、
鉱床のタイプだけではなく、採掘環境や保存状態も大きく影響していると考えられます。
ウンバ産のサファイアについても、文献(Haenni, 1987)では主に二次鉱床から産出することが示されています。
風化や浸食によって母岩から解放され、河川や堆積物中に再堆積されたものが多いとされています。
実際に扱った原石や手元のロットを見ると、丸みを帯びた摩耗の強いものと、角がはっきり残った原石が混在しています。
原石の形状には、二次鉱床らしい摩耗の跡が見られるものと、一次鉱床のような角を残したものがあり、採掘環境の違いが影響している可能性もありそうです。
他産地との比較も含めた詳しい観察については、今後Xで投稿予定です。
鉱床のタイプから傾向は見えてきますが、原石の状態には産地の環境や保存状況、個体差も大きく影響するようです。
ウンバ・サファイア0.403ct “Tessellation 20” の仕上がり


今回削ったのは、ウンバ産のバイオレット・サファイアです。
ルースに仕上がったものとしては、手元で唯一、クラックのなかったウンバ産になります。
研磨にはArya Akhavanによる“ファセットデザイン(Facet Design、カット設計)”を選びました。
多面体的に面を配置した落ち着いたクラウンが、石の色味によく合っていて、
全体として静かでまとまりのある印象になりました。
小粒ではありますが、角度によって青みや赤みがゆらぐように現れ、
派手すぎず、でもずっと見ていたくなるような表情があります。
これまで途中で断念したものばかりだったので、ウンバ産で初めて完成できたこの石は、仕上がったときに自然と嬉しくなりました。
商品ページにも写真を掲載しています。
透明感や反射の具合など、細かいニュアンスをぜひご覧いただけたらと思います。
→ https://www.raralab.shop/product/umba-sapphire-0344ct-tessellation-20/113
見えないものと向き合う
クラックの有無はもちろんですが、それ以外にも、石の内部には研磨に影響する要素がいくつもあります。
そのひとつがインクルージョン(Inclusion、石の中の内包物)が、削ってみるとクラックとつながっていたり、反射の仕方に大きく影響したりすることがあります。
最近扱ったモスアクアマリンでは、あえてインクルージョンの多い原石を選びました。
アクアマリンのインクルージョンは、条件によってはとても美しく、内側から輝くような表情を見せてくれることがあります。
実際に削ったうちのひとつでは、虹色に光るような反射が見られました。おそらくクラック由来のもので、とても印象に残っています。
ただ、その後にクラックが広がってしまい、仕上げを断念することになりました。
現在も、インクルージョンの美しいアクアマリンが数点手元にあり、いずれご紹介できればと思っています。
こうした経験を通じて、インクルージョンがきれいに見える石ほど、見えないリスクにも気を配る必要があるのだとあらためて感じました。
割れやインクルージョンなど、石の中にあるものは、外からは正確に見えないこともあります。
だからこそ、研磨を通して少しずつ見えてくる変化や、石の個性そのものと向き合っていくことが大切だと感じています。
削ることで見えてくるもの
原石の状態には、産地や鉱床のタイプによってある程度の傾向があるようです。
ただ、それだけでクラックの入り方や仕上がりのしやすさが決まるわけではなく、
保存状態や個体差、内部にある見えない要素など、実際に削ってみないとわからないことが多いと感じます。
今回のウンバ産サファイアも、そうした「削ってみて初めてわかること」に向き合う中で印象に残った一本でした。
見た目の美しさだけでなく、石の中にある構造や声にならない個性のようなものも、
少しずつ見えてくるのが研磨の面白さだとあらためて思います。
参考資料
- GIA Gems & Gemology (2023 Spring), “Sapphires from the Rock Creek Deposit, Montana”
https://www.gia.edu/gems-gemology/spring-2023-sapphires-rock-creek-montana - Haenni, W. (1987), “On Corundums from Umba Valley, Tanzania”
https://www.ssef.ch/wp-content/uploads/2018/03/1987_Haenni_On_corundums_from_Umba-Valley_Tanzania.pdf - GIA Gems & Gemology (2015 Winter), “Alluvial Sapphires From Montana: Inclusions, Geochemistry, and Indications of a Metasomatic Origin”
https://www.gia.edu/gems-gemology/winter-2015-alluvial-sapphires-montana-inclusions-geochemistry-indications-metasomatic-origin
撮影機材
ただいま調整中!(だいたい固まってきました)動画もお休みしており、ご不便をおかけします。