研磨で引き出すジルコンの輝きと色
ジルコンと聞いて「キュービックジルコニア(CZ)」を思い浮かべる方は、意外と多いかもしれません。名前は似ていますが、これらはまったく別の石です。CZは硬くて割れにくい人工石(モース硬度8.5)ですが、天然のジルコンはモース硬度6.5〜7.5で、しかもへき開(Cleavage、特定の方向に割れやすい性質)があるため、研磨には細心の注意が必要です。
初めてジルコンを研磨したとき、ルーペが軽く触れただけで角が欠けてしまい、その繊細さに驚かされました。慎重に、時間をかけて丁寧に磨く必要がありますが、そのぶん得られる輝きや色合いには特別な魅力があります。
今回出品する2点のジルコンも、研磨を通じて思いがけない発見があったルースです。
ジルコンに適したファセットデザイン
ジルコンのように繊細な石には、ファセットデザイン(Faceting Design、カットの設計)の選定も重要です。今回はMarco Voltoliniによる「Squartuguese2」を採用しました。
ポルトガルカット(Portuguese Cut、多くのファセットを持つ輝きの強いカット)をベースにしながら、尖った部分や出っ張ったファセットが少ないこのデザインは、ジルコンとの相性が良いと感じています。クラウン(上部)のテーブルは大きく、パビリオン(下部)の細かなファセットと合わさることで、全体の輝きが引き立ちます。尖った部分が少ないことで、ジュエリーへの加工にも適した形状になっています。
ファセットダイアグラムはこちら
https://facetingdesigns.com/2016/10/17/squartuguese2/
加熱で変わる、ジルコンの色
ジルコンの魅力のひとつに、加熱によって色が変化する性質があります。
たとえば、空気を遮断した状態(酸素が少ない環境)で加熱すると、茶色や赤みのある石が青や無色に変わることがあります(還元処理)。一方、空気中で加熱すると、赤やオレンジ、黄色系の色が出やすくなります(酸化処理)。
今回出品するうちの1点では、研磨後に色を明るくできないかと考え、伝統的な還元処理を参考に加熱を行いました。
ウンバ産ジルコン 0.519ct “Squartuguese2”




落ち着いたオレンジ色が特徴の一石です。UVライトを当てるとビビッドなオレンジに蛍光します。10倍ルーペで見ると、テーブル付近に一筋のインクルージョンがありますが、角度によってはほとんど目立ちません。カットのズレもなく、光を美しく反射する仕上がりです。
もともとは「ウンバサファイア」として仕入れた原石で、当初はサファイアと思い込んで研磨を始めました。パビリオン側の研磨はスムーズでしたが、クラウン側のポリッシュでは苦戦しました。DARKSIDEラップ(Lap、研磨用の円盤)に60kのダイヤモンドパウダーを試したり、BA5Tラップで8kから100kまでを使い分けたりと試行錯誤を重ねました。仕上げでは、スピードをわずかに上げるだけで傷が出たり、丁寧に磨かないと表面が荒れたりと、調整が難しい場面もありました。
ただし、ジルコンのポリッシュは一般にはそれほど難しくないとも言われており、今回の難しさは個体差やカットの構造の影響かもしれません。
地金と組み合わせた写真を撮影したところ、思った以上に可愛らしい印象になり、異なる光の中で魅力が引き立つことを改めて実感しました。
商品ページはこちら
https://www.raralab.shop/product/umba-zircon-0519ct-squartuguese2/109
ジルコン 1.290ct “Squartuguese2”




こちらは、産地不明の1.290ct。原石の色が、2025年のPANTONEカラー・オブ・ザ・イヤー「モカ・ムース」に近いことが決め手になりました。ただ、研磨後はやや暗く感じたため、より美しい発色を目指して加熱処理を行いました。
加熱直後は色が不安定でしたが、数日で落ち着き、現在では理想に近いモカ・トーンが定着しています。クラウン側の大きなテーブルの研磨には苦労しましたが、先に仕上げたジルコンの経験が活きて、より丁寧に磨ききることができました。
カットは全体に整っており、ファセットのズレや欠けなどの欠点は見られません。10倍ルーペで見てもインクルージョンは確認できず、表面も滑らかに仕上がっています。角はなだらかで、金属との相性も良好です。
地金と合わせた写真では、カフェオレ系のやわらかな色が引き立ち、ジュエリーとして仕立てた際の雰囲気がイメージしやすくなりました。
商品ページはこちら
https://www.raralab.shop/product/zircon-1290ct-squartuguese2/108
研磨中に気づいた、2つの石の共通点
モカカラーのジルコンを研磨しているとき、「この感触、どこかで経験したような…」と思う瞬間が何度かありました。研磨中の反応がとてもよく似ていたのです。
後日、最初に研磨したオレンジのルースをソーティングに出してみたところ、それもジルコンだったことが判明。思っていたより早く、ジルコンとの出会いは始まっていたようです。研磨中に感じた手応えが、あとから意外なかたちでつながった出来事でした。
素材と向き合いながら仕上げた2つのジルコン
ジルコンは、色の多様さや輝きの美しさに加えて、研磨の難しさが魅力のひとつです。そのぶん、完成時の手応えは格別です。
今回出品した2点は、まったく別の原石から始まったにもかかわらず、研磨の過程を通じてつながりが見えた印象的なルースでした。素材の反応と向き合いながら仕上げた、異なる表情の2つのジルコン。どうぞじっくりご覧いただけたら嬉しいです。
参考資料
撮影機材
ただいま調整中!動画もお休みしており、ご不便をおかけします。